アフリカ大陸東端、インド洋に面する国ケニア。首都ナイロビに本拠を置くiHubは、テクノロジー系の起業家、スタートアップを支援しているコミュニティだ。
iHubはコワーキングスペース運営を軸としており、ここを通して起業家へのサポートを行っている。ブートキャンプをはじめ、テーマを絞ったミートアップ、人材採用支援、開発コンサルティングなど、他のコワーキングスペースとは一線を画する充実のバックアップ体制を有する。
企業基本情報
創業者について
iHubの創設者であるエリック ハースマン(Erik Hersman)(44)は、リフトバレーアカデミー、フロリダ州立大学卒の連続企業家である。
エリックは2008年ごろまで起業家支援のブートキャンプを単発で行っていたが、こうしたブートキャンプは1年に1回か2回ほど行われるのみで、起業家たちの成長に結びつきにくかった。仲間たちがより日常的に安定して活躍できる場を作る必要があるという思いから、iHub創設のアイデアが生み出されたのである。
エリックはiHubのほかにも多数のサービス立ち上げに関わっており、非営利ソフトウェア開発会社のUshahidi(※1)をはじめ、インターネット設備、サービスを提供しているBRCK(※2)が有名だ。
(※1)Ushahidiとは
「目撃者」の意。ケニア発、非営利のソフトウェア開発である。利用者の報告をもとに、リアルタイムでマップに情報を共有するシステムを提供しており、選挙監視や災害発生時の支援などに役立てられている。
(※2)BRCKとは
ケニア、ナイロビに本拠を置くソフトウェア・ハードウェア販売会社である。主にインターネット環境の普及活動を行っており、ケニア国内のインターネット普及率向上に大きく貢献している。
会社沿革
- 2010年3月、iHubが創設される。
- 2011年、「m:lab incubator」、「iHub Research」をローンチ。
- 2012年、「iHub Consulting」をローンチ。
- 2013年、「UX Lab」をローンチ。
- 2015年3月、ケニア大統領の訪問を受ける。
- 2015年7月、「IBM Innovation Space @ iHub」開始、IBM研究所協賛のもと、主にクラウドとビッグデータのノウハウを共有する。
- 2016年12月、ナイロビのンゴン通りから、ハーリンガムに拠点を移す。
- 2017年9月の時点でカナダのヘッジファンド、BOP Fundsに債権を売却。
- 2018年2月、ソフトウェアコンサルティングサービスを再構築。
※現時点での代表(マネジメントディレクター):Nekesa J. Were
会社概要
企業価値:不明
企業規模:~50名
ホームページ:https://ihub.co.ke/
理念:Connect(接続) Build(構築) Invest(投資)
※iHubの公式サイトには、『チャレンジし、チャレンジされる精神をもって、個の力ではなく、コミュニティとしての力をもってともに成長しよう』とスローガンが掲げられている。
資金調達
- 2014年、iHubの所属する経済共同体のGearboxが、レメルソン財団から9万米ドルの出資を受ける。この財源はUshahidiを通して分配された。
- 2016年、地元投資家からサービス強化のための資金調達。
- 2017年、4000万米ドル規模のAfrican Innovation Fundを設立。
iHubのサービス
iHubは200以上の起業家、スタートアップを擁するケニアのコワーキングスペースである。利用者は約18000人に上る。ただのコワーキングスペースにおさまらず、起業家向けのワークショップやイベント、コンサルティングを提供、アフリカにおける起業家育成サービスの心臓部として世界中に名を馳せている。
iHubでは起業家たちがノウハウを持ち合わせた技術者や研究者と自由に出会える他、投資家の目を積極的に集めることで事業成長の触媒を担っているのだ。
そんなiHubがローンチしたインキュベーター(※3)サービス、「m:lab East Africa」は、2015年11月にUBI Global(※4)からアフリカ圏内におけるビジネスインキュベーターのトップ3に選出されるなど、iHubのもつバックアップ能力が確固たるものであることが裏付けられている。
(※3)インキュベーターとは
incubator、incubate、インキュベートとは、もともと卵をふ化させるという意味の単語であるが、これをビジネス用語に転用し、起業家や事業を育成することをインキュベート、これを促進する人や団体をインキュベーターと呼ぶようになった。
(※4)UBI Globalとは
世界70か国以上、400以上のインキュベーションサービスの効果を測定し、これらがより効果的に作用するよう、競争を促している団体。
様々な企業と提携
またGoogle、Facebook、Microsoft、IBMなどテック系有名大企業からの協賛を多数得ており、ミートアップイベントや講演会の開催、技術共有などで強力なパートナーシップを構築している。
2019年に入ってアフリカ大陸で初めてのGoogle for Startups EMEA(※5)サミットが開催され、Google for Startupsが提供するプログラムがアフリカ圏内のスタートアップにもサービスを開始するとアナウンスされた。
(※5)EMEAとは
Europe, Middle East and Africaの意
スタートアップ成長を促進するイベント
こうしたバックアップ体制のもと定期的に開催されているトラクション・キャンプと呼ばれるイベントでは、世界銀行と世界中の専門家の協力を得て、半年ほどの期間スタートアップの成長を促進する取り組みが行われている。
このキャンプの目的は単にスタートアップを成長させることにとどまらず、東アフリカ、果ては世界に羽ばたいてゆく企業を生み出すことにある。こうした徹底的な取り組みが各国のメディアで評価されているのだ。
設備面について
設備面においても、日本のコワーキングスペースとは比べ物にならないほど充実している様子がうかがえる。
一人で集中するためのデスク、会議を行ったり、イベントを開催したりする個室など、多種多様なデスク、部屋が用意されているほか、休憩や気晴らしにもってこいのカフェやちょっとした娯楽設備なども備えており、まさに至れり尽くせりの空間である。
料金について
1時間単位で借りられる単純なデスクから、個室を含む1か月単位で契約可能なコースが3種類用意されており、利用者はもれなくコミュニティの一員として活躍することとなる。
料金プランは以下の通り。
料金 | 内容 | |
Floating Desk | 200KES(※)/1時間 | 自由に使えるデスク。希望次第で会議室やテラスも使用可能。 |
White Menbership | 7000KES/1か月 | 1か月単位、1日12時間予約可能なデスク。防音電話ブース、限定イベント参加権、印刷機の優先使用、カフェ利用割引、各種コミュニティ参加権が付属。 |
Green Menbership | 20000/1か月 | 1か月単位、24時間予約可能な一人掛けデスク。White Menbershipの内容すべてと、iHubが主催するワークショップや、スタッフ、協賛各所からのサポートが得られる。 |
Red Menbership | 70000KES/1か月 | 1か月単位、24時間利用可能なプライベートスペース付きデスクと、上記すべてのサービス。 |
※KES・・・ケニアの通貨、ケニアシリング。100KES:約1米ドル
2015年の3月には、ケニア大統領に直々の訪問を受け、2016年にはFacebook代表のマーク・ザッカーバーグの訪問も受けている。
この際マークはiHubのメンバーと話し、彼らがモバイルマネーをビジネスやコミュニティの支援に活用している様子に感化されたとFacebookに投稿を残している。
Just landed in Nairobi! I'm here to meet with entrepreneurs and developers, and to learn about mobile money — where…
今後の展開
近年のケニアにおけるテック系スタートアップ勃興の流れは、「シリコン・サバンナ」と称され様々なメディアに取り上げられるなど、この約10年間におけるケニアスタートアップ界の勢いはとどまることを知らない。
2018年のアフリカ全土におけるスタートアップを対象とした投資額は前年の四倍に跳ね上がり、7億2560万米ドルもの記録的な数字となった。
その中でもテクノロジー系スタートアップが活発なケニアはその4割弱を占める投資を集め、今後も勢いを伸ばしていくであろうことは明白だ。
iHubの生み出したスタートアップには『M-KOPA Solar』のように、既に世界に名を轟かせているものも存在し、いつ世界を又にかける超大企業が飛び出してくるか、既に秒読みである。
参照元
http://www.ihub.co.ke/
https://www.forbes.com/sites/tobyshapshak/2016/09/01/africa-will-build-the-future-says-zuckerberg-visits-kenya-on-first-african-trip/#39c0cb1570b2
https://www.crunchbase.com/organization/ihub/timeline/timeline#section-recent-news-activity
https://www.standardmedia.co.ke/business/article/2001320636/how-kenyan-start-ups-shared-sh35-billion-funding-in-2018