Gricd Frij社は、ナイジェリアで携帯・自立型のコールドチェーン機材・サービスを供給するスタートアップである。
サービス概要
Gricd Frij社は、独自に開発した「携帯・電力自立型冷蔵ボックス」と「その温度管理・位置情報提供」をサービスの主軸に据えて、ナイジェリア全土で整備が遅れているコールドチェーン網のうち、特に腐りやすい農産品やワクチン等の医薬品の輸送に特化したサービスを提供している。
企業基本情報
起業家情報
代表:Oghenetega Iortim
出身:ナイジェリア
学歴:カバナント大学(ナイジェリア)
年齢:30歳前後
会社概要
サービス提供国:ナイジェリア
従業員数:10名以下
ホームページ:http://www.gricd.com/
推定資金調達額合計:不明
事業沿革
- 2016年1月、Iortim氏はTyrus Technologies社を設立。オープンソース技術を使ったビジネスソフトウェア(既存のネットワークへの組み込み可能な仕様)の開発、配布をスタート。
- 2017年9月、同氏はGricd Integrated Services Limited社を設立し、CEOに就任。Gricd Frij社を通じて、携帯・自立型コールドチェーン機材・サービス業を開始し、現在に至る。
※参照元:
https://www.linkedin.com/in/oghenetega-iortim-81099a1a/
設立までの背景
創業者の背景
創業者Oghenetega Iortim氏は、ナイジェリア生まれのICTエンジニアであり、大学ではICTコミュニケーション技術を専攻した。
多目的ソフトウェア開発を専門とし、電力、製造業、農業、石油・ガス産業など様々な産業界においてICT関連の技術開発に従事してきた経験を有する。
近年では、ICT技術と農業およびヘルスケアの融合に関心を有し、2017年には、それまでに培った技術と人脈を駆使して、携帯可能で自律的な小規模コールドチェーンを提供するスタートアップを立ち上げた。
市場背景
ナイジェリアは、西アフリカに位置する連邦共和制国家であり英連邦の加盟国。およそ1億9000万人の人口はアフリカ諸国の中でも最大規模であり、世界第7位の人口を要する中西部アフリカの地域大国である。
その国土は、西はベナン、北はニジェール、北東はチャド、東はカメルーンとそれぞれ国境を接し、南はギニア湾に面し大西洋に通ずる広大な国である。
ナイジェリアのGDPはアフリカ第1位。近年ではサービス産業の成長が顕著である。他方、国家歳入の約7割、総輸出額の約8割を原油に依存しており、経済の多角化が課題。
欧米諸国とは活発な経済関係を維持しているものの、昨今のシェールガス革命によって、特に対米輸出が減少傾向にある。
また2014年から歳入の大部分を占める原油価格の下落が続いているほか、通貨ナイラの市場レート下落、インフレ、電力不足などが指摘されている。
現在の市場の問題点
国家の発展および国民の生活水準の向上を実現するに際して、ナイジェリアが抱える課題は多種多様であり、その優先順位付けも難しい。
しかしGricd Frij社との関連では、広大な国土に比して国内インフラの整備が追いついておらず、特に農業およびヘルスケアの分野でコールドチェーン網の整備が喫緊の課題となっている。
農業については、国内の農業生産物の40-50%が輸送およびコールドチェーン網の未整備が原因となり、消費者の手に届く前に廃棄(深刻なフードロス問題)されている。
その総量は年間で14億トンにも達しており、国内における食糧事情の改善のためにも、輸送インフラの整備や電力事情の改善はもちろん、コールドチェーン網の早急な整備が期待されている。
医療・ヘルスケアについても、輸送およびコールドチェーン網の整備が喫緊の課題として浮上している。特に地方部においては、電力、交通インフラが極めて脆弱であるため、人々は最低限の医療サービスを受けることもままならない。
また、ナイジェリアでは、遠隔地に暮らす約19.4百万人の子どもらが輸送および保存インフラが未整備であることが理由で、適切な形でポリオ、はしかをはじめ定期ワクチン接種を受けることができていない。
このために感染症に起因する子どもの死亡率が高止まりしていることが大きな社会問題となっている。
製品・サービス詳細
Gricd Frij社は、独自に開発した「携帯・電力自立型冷蔵ボックス」と「その温度管理・位置情報提供」をサービスの主軸に据えて、ナイジェリア全土で整備が遅れているコールドチェーン網のうち、特に腐りやすい農産品やワクチン等の医薬品の輸送に特化したサービスを提供している。
製品・サービスの詳細は以下のとおり。
製品
1. 携帯・電力自立型冷蔵ボックス(Frij Box)
サブサハラアフリカ初の携帯・電力自立型の冷蔵ボックスであり、リアルタイムで温度および位置を確認できる。ただ、冷蔵保存できるだけでなく、一定の温度に保存できる点がポイント。
*バッテリー: 6-24時間駆動
*設定温度: -20度~+25度
*容量: 15リットル
*240ボルト電源対応
*GPSを内蔵し、リアルタイムでボックス内温度および所在地を確認可能。
2. 携帯型温度測定器(Frij Mote)
既存のコールドチェーン機材に接続し、リアルタイムで温度および位置を確認できる。
*バッテリー: 48時間駆動
*240ボルト電源対応
*GPSを内蔵し、リアルタイムでボックス内温度および所在地を確認可能。
サービス
1. 温度管理システム(Temperature Monitoring)
専用クラウドソフトを使い、リアルタイムで温度および位置情報を管理できる。
*リアルタイムの温度および位置情報管理
2. モバイル温度管理(Monitor Via Mobile and Desktop)
デスクトップPCおよびモバイル機材(スマートフォンなど)を通じて、専用冷蔵ボックス内の温度を管理・監視できる。
*遠隔地からPCおよびモバイル機材を用いて管理可能
*設定温度を超えるとアラーム発信機能あり。
※参照元:
http://www.gricd.com/
https://www.youtube.com/watch?v=LLxOCuPOhy0
https://technext.ng/2019/09/12/meet-gricd-frij-startup-using-iot-to-provide-cold-chain-solutions-for-the-agric-and-health-sector/
競合について
ナイジェリアにおいては、ユニセフ等の国連機関の支援や民間セクターによる投資活発化もあり、極めて脆弱な状況にある国内のコールドチェーン網の整備が、特に農業およびヘルスケア分野の発展に不可欠であり、早急に取り組むべき課題であるとの認識は共有されている。
このため、特に地方部における冷蔵倉庫の建設、冷蔵庫の普及、各種冷蔵輸送手段の整備、冷蔵効果の高いパッケージや常温での保存を可能とする加工食品の普及など、コールドチェーン網のステップそれぞれにおいて、国際機関、NGO等の支援を得ながら、官民双方の取組が進んでいる。
Gricd Frij社がサービスを提供する冷蔵輸送の分野でも、大型冷蔵トラックから小型冷蔵バン、小型冷蔵ボックスを搭載したバイク便サービス、手押し型の小型冷蔵庫(アイスクリームや保冷用アイスの販売)まで、多種多様なサービスが、様々なプロバイダーにより提供されている。
その意味では競合する企業、個人事業主の多い分野と言えるが、Gricd Frij社のサービスには、一定温度での管理に加えて、その状態をリアルタイムで確認できるという付加価値が付与されており、独特のサービスを提供していると言える。
なお、Gricd Frij社の携帯・電力自立型冷蔵ボックスは、ナイジェリア医療研究所(the Nigerian Institute of Medical Research)にその有用性が認められ、ワクチンや検体の輸送に使われている。
サービスの優位性
上述のとおり、コールドチェーン網のうち、輸送に特化したサービスを提供する企業、個人事業主は多数にのぼると思われるが、2億人弱の人口を抱えるナイジェリアでは、特に地方部を中心としてコールドチェーン輸送に関して膨大な需要が存在していること、Gricd Frij社は独自技術を有し、競合他社がたやすく追従することができない独自のサービスを提供していることもあり、その相対的な競争力は高いものと思われる。
あえて今後の課題を挙げるならば、携帯・電力自立型冷蔵ボックスの容量制限である。現在は15リットル相当の物品しか輸送することができない。これはワクチンや検体などの医療サンプルの輸送には必要十分かもしれないが、農産品の輸送には容量が小さすぎると言わざるを得ない。
用途に合わせて様々なサイズの保冷ボックス(庫)を提供できるか否かが、今後の販路拡大の行く末を占う上で重要なポイントとなるであろう。
今後の展開
ナイジェリアにおけるコールドチェーン網整備への需要は、特に地方部において極めて高い。
国土の大多数を占める農村部、地方部の住民の多くは、十分な食料がないばかりか、電力や衛生的な水へのアクセスに乏しく、医療サービスの極めて乏しい貧困状態におかれている。
他方、現在ナイジェリアは西アフリカの大国として急速な経済発展を遂げており、今後農村部、地方部の生活水準が向上するに従って、新鮮な農作物や必要十分な医療・ヘルスケアへの膨大なニーズが発生することは明白である。
このため、主に地方部を中心としたコールドチェーン網の整備が喫緊の課題となるが、国連等の国際機関、政府などの公的機関による取組は地方における病院や保冷倉庫の整備、電力事情の改善、公共交通網の整備など、基礎的なインフラ整備に優先的に振り向けられることになると思われる。
このため、コールドチェーンのうち輸送に係る部分については、民間セクターによる投資や事業参加が求められることになると考えられるため、同分野に先行投資しているGricd Frij社の判断は正しいのではないか。
特に、独自技術を有することで、後発参加企業との差別化を図ることも可能であると考える。