CHIL Artificial Intelligence LabはAI技術を利用して低所得者層向けに乳がん、子宮頸がん診断の改善事業を行っているウガンダのスタートアップ企業である。
主にインターネット接続したスマートフォンアプリを利用したAI診断、自己検査キットの販売、専門機関の紹介、薬の処方、専門医の紹介を行っている。
CHIL Artificial Intelligence LabのCHILはCommunity Health Care Innovationの略。
サービス概要
CHIL Artificial Intelligence Labは現在Ketiというスマートフォンアプリを利用した診断サービスに力を入れている。
Ketiを使うことで顧客はAIとのチャットでの無料相談をすることができる。またがんの専門医と相談をするのと同じように乳がんと子宮頚がんの診断も受けることができる。


※CHIL Artificial Intelligence Labホームページより引用
診断の結果がんの疑いが判断された場合は自己検査キットの販売提供がされる。自己検査キットを使った検査はアプリと連動させて行う。検査内容はAIにより分析され結果がアプリを通して提示される。
※CHIL Artificial Intelligence Labホームページより引用
自己検査キットを利用した検査以外にも、CHIL Artificial Intelligence Labの紹介を受け同社のパートナー専門機関で検査をすることもできる。
検査の結果、がんが陽性だった場合は薬の処方もアプリを通して行われる。必要な場合は顧客に専門医の紹介も行われる。さらにこうした検査や治療の間、電話によるフォローアップも隔週で行われ、薬による副作用などが発生した場合は薬の調整をしてもらえる。
企業基本情報
起業家情報
代表:Dr. Nabuuma Shamim Kaliisa(ナブウマ・シャミム・カリイサ)
出身:ウガン
学歴:マケレレ大学
会社概要
企業価値:不明
サービス提供国:ウガンダ、エチオピア、コンゴ、南スーダン、ザンビア
従業員数:不明
ホームページ:http://www.cdarh.org/index.html
Ketiユーザー登録者数:140,070人(2019年5月)
販売した自己検査キット数460個以上(2019年5月)
事業沿革
- 2016 Community Dental and Reproductive Healthとして創業
- 2018.4 CHIL-Artificial Intelligence Labに社名変更
- 2018.5 AIを使ったがん診断スマートフォンアプリKetiをローンチ
- 2018.10 AWIEF Award Finalist*1に選出、RUFORUM Young African Entrepreneurs Award*2を受賞
- 2018.11 武田計測先端知財団*3のヤング武田賞を受賞
- 2018.12 トニー・エルメル財団*4賞を受賞(UNDPより賞金5000ドル授与)
- 2019.7 Google for startupsとCcHUB*5主催のPitchDrive2*6参加企業10社に選出(応募企業200社)
- 2019.8 日本政府主導で行われる第7回TICAD(アフリカ開発会議)アフリカスタートアップピッチ参加
- 2020年末までに150,000ドルを日本企業からの投資・出資を目指す
*1 AWIEF…アフリカの女性起業家を育成し、アフリカ女性の経済的エンパワメントの促進を目指す組織。
*2 RUFORUM…人々の持続可能な生活と国家の経済発展を担っていくため、優秀な学生と質の高い研究を生み出すことを目的とし2004年に設立されたアフリカの大学コンソーシアム。
*3武田計測先端知財団…先端技術と社会(産業、工業)のあり方やその方向性を探り、調査、普及活動に力を注ぐため2001年に設立された財団。
*4トニー・エルメル財団…アフリカの経済発展に向けて起業家をエンパワーする目的で2010年に設立された財団。
*5 CcHUB…ナイジェリア発の創造的なソーシャルテクノロジーベンチャーをサポートするインキュベーションセンター。
*6 PitchDrive2…事前に選抜されたアフリカスタートアップ10社で、アジアの5つの都市にあるテック系スタートアップを巡るツアープログラム。
※参照元:
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/ipnews/2019/40169f9c5e330ccc/companydetail.pdf
http://www.cdarh.org
https://www.facebook.com/cdarhug/
設立までの背景
創業者の背景
創業者のナブウマ・シャミムは6歳のとき顎が腫れるほどの慢性的な歯痛を経験していた。歯医者は遠く両親には経済的な余裕がなかったので治療ではなく抜歯を選択し、痛みは眠れなくなるほどに悪化した。
またナブウマ・シャミムは13歳の頃には母親を子宮頸がんで亡くしている。
この2つの経験から歯科医療とがん治療に対して情熱を持つようになり、ウガンダのマケレレ大学医学部在学中にCommunity Dental and Reproductive Health(後にCHIL Artificial Intelligence Labへ社名変更)を創業した。
創業当初は歯の定期検診に加えて子宮頸がんの検査を行っていた。しばらくすると子宮頸がん検査の顧客数が増加していき、もっと多くの人へ検査行っていく必要性を確認した。そして、AIを活用したかん検査のためのモバイルアプリの開発を行った。
市場背景
子宮頸がんは世界中で毎年52万8000人の新規症例があり、子宮頸がんによる死亡者は26万6000人と推定されている。そして死亡症例のうち85%以上が低中所得国で発生している。
ウガンダでは、がんで死亡する女性のうち40%が子宮頸がんで亡くなっている。この割合の高さは診察、治療、がんが専門医紹介などのサービスが一般的な価格はなく高価であることや、専門機関へのアクセスなどが要因で子宮頸がんの早期発見の手段が十分ではないことが要因となっている。
ウガンダは都市部でも医療機関が少なく健康診断を受ける機会は限られてしまう。地方や農村部の貧困層の女性の場合はさらに自身の健康状態を知ることや、がんの検査を受けることが難しい状況にある。
そこでCHIL Artificial Intelligence Labは誰でもどこでも診断できるようスマートフォンアプリの開発を行い、それを実現させた。
問題点
顧客ターゲットを農村及び都市周辺の低所得者層を顧客ターゲットとしているため収益の拡大が課題である。
※参照元
http://www.cdarh.org/cancer.html
https://www.tonyelumelufoundation.org/east-africa/from-a-CHILdhood-experience-to-a-thriving-business-meet-shamim-nabuuma
利用方法
- CHIL-Cancerスマートフォンアプリ「Keti」をダウンロード。
- チャットでAI健康相談サービスを利用。
- 相談の結果、子宮頸がんの疑いがある場合は自己検査キットを購入できる。(紹介を受けて専門機関で検査を受けることも可能)
- がん検査の結果はAIで分析されアプリで取得。
- がんが陽性の場合は必要に応じて薬の処方や専門医が紹介される。
- その後も継続的なフォローアップが行われる。
料金はチャットでの健康診断は無料。がん検査、専門機関及び専門医の紹介、フォローアップなどのフルサービスを受けるには2ドルが必要となる。また検査キットは2ドルで販売されている。
Here is the interview I had with CNBC TV
Hello all we are happy to let you know that After getting the Patent Rights for our Artificial Intelligence System, …
We happy to inform you that you can now order for your cervical cancer self testing kit .it its easy and simple to use…
※参照元:
http://www.cdarh.org/product.html
競合・サービス拡大
競合について
AIとモバイルデバイスを活用した子宮頸がんの検査を行う企業のひとつとしてMobileODTが挙げられる。MobileODTは2012年に創業したイスラエルの起業で、総額1010万ドルの資金調達をしており、ケニア、インド、カンボジアを含む29か国でサービスを提供している。
MobileODTの検査では自社で開発したEva Colpoと言うモバイルカメラを使用する。これを使って医師が子宮頚部を撮影することでがんの検査を行う。
撮影した画像は独自のアルゴリズム(Automated Visual Evaluationアルゴリズム)により分析されリアルタイムでEva Colpoの液晶に表示される。
MobileODTとCHIL Artificial Intelligence Labの違いは、MobileODTがモバイルデバイスを使った医師による診断であるのに対して、CHIL Artificial Intelligence Labはスマートフォンアプリを使ったAIによる診断のためどこでも自分でできるので、専門機関へ簡単にアクセスできない人や低所得者も利用が可能である。
サービス拡大の秘訣
上記のように同様のサービスを提供するスタートアップと比較し、スマートフォンを使った相談、AIによる診断、自己検査キットによる検査及びフォローアップサービスが利用可能な点がCHIL Artificial Intelligence Labの強みである。
また創業者のナブウマ・シャミムはUNDPやアフリカのスタートアップ支援財団からなど複数の組織から賞を受けパートナーシップを結んでいる。GoogleStartupsのプログラムにも参加し、アフリカの若手起業家としての注目度も高い。
※参照元:
https://spectrum.ieee.org/biomedical/devices/ai-medicine-comes-to-africas-rural-clinics
https://www.timesofisrael.com/beyond-the-pap-smear-startup-uses-phone-light-and-ai-to-detect-cervical-cancer/
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/ipnews/2019/40169f9c5e330ccc/companydetail.pdf
http://www.cdarh.org/news.html
今後の展開
CHIL Artificial Intelligence Labは社会から取り残された人々の健康の保護、ヘルスケアへのアクセスを重要な使命としており、スマートフォンによる医療サービスを農村地域及び都市部の低所得者にこれからも提供していく。
2019年9月には南アフリカで新しい支所を開設。将来的にはアフリカ全土及びアジアへの拡大、2024年末までに少なくとも300万人に子宮頸がんの検査サービスの提供を目指している。
ナブウマ・シャミムは、すべての女性が自身の健康のためICTツールを利用できるようにするべきだと話している。
※参照元:
https://gsea.org/finalists/shamim-nabuuma-kaliisa/
https://www.sautitech.com/startups/shamim-nabuuma-gets-google-support/