『M-DAQ』越境ECの為替手数料を限りなくゼロに近づける!革新的なフィンテック

M-DAQはシンガポール発祥のフィンテック分野のスタートアップ企業だ。2009年に設立されてから外国為替手数料をなくすことを目的にサービスを展開している。

サービス概要

M-DAQが提供するプロダクトは大きく分けて二つある。

  1. 毎秒変動する外貨レートを商品購入時点のレートで保証するAladdin(買い手側へのサービス)
  2. Aladdinで算出された商品代金を受け取るHulkPay(売り手側へのサービス)

この二つのプロダクトによってeコマースでの越境購入の際の外国為替手数料を少なくしている。通常越境ECで商品を購入した際には、売り手側にも買い手側にも4%程度の手数料がかかる。つまり買い手側は4%高く支払わなければならず、売り手側は4%マイナスした金額を受け取ることになる。

これに対してAladdinとHulkPayが売り手側、買い手側、両方の手数料を下げることを実現している(詳細は後述)。

企業基本情報

起業家情報

代表:Richard Koh
出身:シンガポール
学歴:Nanyang Technological University
年齢:46歳

会社概要

企業価値:780,000,000 ドル(2015年時点)
サービス提供国:シンガポール
従業員数:約50名
ホームページ:https://www.m-daq.com/
推定資金調達額合計:113,300,000ドル(2019年時点)

事業沿革

  • 2010.1.  操業開始
  • 2010.4.  エンジェル投資家長谷川氏から500,000シンガポールドルの出資を受ける
  • 2010.  シリーズA投資で25,000,000シンガポールドルを調達
  • 2011.3.  M-DAQに改称
  • 2012.5. オーストラリア証券取引所とシティグループ(※1)よりシリーズB投資を打診される。
  • 2012.10. オーストラリア証券取引所とシティグループからの投資打診がとん挫する。
  • 2013.4.  Vickers Ventures(※2)とGSR Ventures(※3)からシリーズB投資の打診を受ける。
  • 2013.10.  Citi Ventures(※4)の協力の元GSR VenturesがシリーズB投資を95,000,000シンガポールドルで行う。
  • 2015.9.  eコマース用ソリューションであるAladdinパイロット版導入が無事成功する。
  • 2015.11.  シリーズC投資で118,000,000シンガポールドルを調達。投資企業にはアリババ傘下のAnt financialも含まれる。
  • 2018.6.  四半期で初の収益化を達成する。
  • 2018.12.  プロダクトの導入によって約40,000,000シンガポールドルの収益をパートナー企業にもたらす。
  • 2019.  Best Tech Company to Work For(※5)を受賞する。

(※1)シティグループとは
マンハッタンに本拠を置く銀行グループ。

(※2)Vickers Venturesとは
シンガポールに本拠を置く、ヴェンチャーキャピタル専門の投資会社

(※3)GSR Venturesとは
中国に本拠を置く、ヴェンチャーキャピタル専門の投資会社

(※4)Citi Venturesとは
アメリカに本拠を置く、シティグループ傘下ヴェンチャーキャピタル専門の投資会社

(※5)Best Tech Company to Work Forとは
シンガポールで発表されるその年度内において特に優秀な成績を収めた会社に送られる賞

※参照元
https://www.m-daq.com/wp-content/uploads/2018/08/M-DAQ-Press-Release-21-August-2018.pdf

設立までの背景

創業者の狙い

創設者兼CEOのRichard Kohは自社のプロダクトを介したソリューションの導入目的を次のように発言している。

M-DAQが提供するプロダクトを使用することで、外国為替をコンビニ決済などを使って、現地通貨で使用する購入者との間において、販売者側は為替手数料が安くなったことから、商品にかかっている余分なコストを削減することで値下げすることができ、売買の機会損失を減らすことができる、としている。

“This service has contributed significant cost savings to customers and has also generated an additional revenue stream to e-commerce platforms. It can significantly decrease shopping cart abandonment by allowing the merchants to price their goods in customers’ local currencies using FX rates that are fully transparent, fair and competitive.”

市場背景

アリババなどのeコマース会社がM-DAQのプロダクトを自社のプラットフォームに導入する背景には、モバイルペイが爆発的に普及していることが要因として考えられる。

モバイルペイが発達した裏側には、スマートフォンによって、よりインターネットが一般人の身近なものとなったこともあげられる。

まず、インターネットの普及によってeコマース分野が発達し、多国間での越境購入も活発に行われるようになった。そして、モバイルペイによって今まで煩雑であった支払が簡単になったことによって、より越境購入は身近なものとなっている。

これらの要因から、eコマース上での外国為替取引も頻繁に行われるようになり、手数料総額も無視できない価格にまで昇るようになった。そこで、外国為替手数料を押さえるプロダクトの需要が伸びることは想像に難くない事象である。

今まで専門の業者を通さないと解決できなかった問題を自社で解決できるようにすることから、M-DAQが提供するプロダクトとソリューションは需要が尽きないのである。

また、eコマース分野だけでなく、金融業界でもM-DAQのソリューションは強い需要がある。M-DAQの外貨追跡と仕入れのアルゴリズムによって、投資家はリアルタイムに他の国の証券や外貨の価格を追跡かつ、スリッページ(※6)なしに購入することが可能となる。

この越境で仕入れる金融商品にもM-DAQのソリューションは有効で、実際に2018年にはプロトタイプがシンガポール証券取引所に導入されている。

(※6)スリッページとは
注文したときの値段と約定したときの値段の差のことを指す。毎秒変わる外貨の値段によって注文と実際に注文が確定したときの値段がずれることが良くある。値動きが激しい場合には自分の思った通りの価格で外貨を仕入れることができず、時には巨額の損失となってしまう。

※参照元
https://www.businesstimes.com.sg/hub/making-waves-in-the-world-of-fintech
https://www.businesstimes.com.sg/brunch/gamechangers-in-fintech
https://www.linkedin.com/pulse/ant-financials-invasion-southeast-asia-bruno-paul-gargerle

サービス詳細

AladdinとHulkPayの導入は、自社のeコマース、もしくは金融のプラットフォームに導入するためのコンサルティングを受け、実際に運用することから始まる。サービスの利用料金は、導入するプラットフォームによってまちまちで、企業間取引のためあまり公にされていない。

ただし、AliExpress(※6)についてマージンが公表されており、販売されている製品一つあたりの通貨スプレッドを1.25%としている。その他のeコマースサイトで同一商品を売る場合には買い手側にも売り手側にも約4%以上の手数料がかかることから、半額以下になる計算になっている。

以下で実際にAladdin(買い手側のサービス)とHulkPay(売り手側のサービス)を使った場合の手数料と、Paypalなどの既存のフィンテック会社と比較してみる。

Aladdin

Aladdinが提供するソリューションは非常に単純だ。商品を購入した時点での外貨レートで固定して商品を購入することができる。狙いは単純だがほとんどの外国為替決済会社が出来ていない。

具体例として世界的な決済代行会社であるPayPalがあげられる。PayPalの為替レートは市場で取引されているレートの3%から4%程度高い独自レートを使用している。独自レートを採用しているのはPayPalだけでなく、MasterやVisaなどの各カード会社も同じだ。

更に、その独自レートで購入した後に通貨換算手数料という名目でさらに4%の手数料を負担する

一方、Aladdinはというと、市場で取引されている外貨の値段で商品を買うことができる。取引時点での外貨の価格に1.25%のみが手数料としてかかる(各プラットフォームによって異なる)。

外貨レートが独自でなく、まとめて1.25%のみの手数料であるので、非常に透明性が高く、ユーザーはどこで課金されているのかわかりやすい。

もし仮に、1ドル100円のときにPayPalを使ってe-bayで100ドルの商品を買ったとする。この場合、円の対ドルの独自レートは+4%なので1ドル104円で100ドルの商品を購入することになる。

また、個人が日本円をドルに変換する際には通貨換算手数料という名目でさらに4%の手数料を負担する。1ドル104円に対して4%の通貨換算手数料がかかるため、最終的には以下の様になる。

104円×100ドル×1.04=1万816円

一方で、Aladdinを導入するECサイトで同じ商品を同じ値段で買った場合には、購入した当時の外貨の値段に1.25%がかかるだけなので、1ドル100円とすると以下の値段になる。

100円×100ドル×1.0125=1万125円

差引で691円となる。100ドルでもこれだけの差が出るのでBtoB取引での価格は大きく異なる。

このシステムを支えるのが、リアルタイムの外貨価格監視と発注システムだ。外貨取引市場での値段をリアルタイムに監視し、外貨の発注を行うことでこの低い料率を実現している。これがAladdinのサービスである。

HulkPay

Aladdinが購入者向けのサービスなのに対して、HulkPayは販売者側に大きなメリットのある。前述した様に越境ECでは買い手側だけでなく、売り手側にも手数料がかかる。

Aladdinと同様にPayPalで商品を送った場合を比較してみる。まず、PayPalでは販売者側には通貨換算手数料と決済手数料の2つがかかる。

1ドル100円で1万円のものを売ったとすると、100ドル分の収入を得ることになる。まず、100ドル分から決済手数料として4.1%分が引かれ95.9ドルとなる。

日本円に換算すると9,590円となりそこから固定の費用(手数料)として40円が引かれて9,550円となる。そこに通貨換算手数料として4%分の手数料が引かれるため以下の計算になる。

9,550円×0.96=9,168円

一方でAladdinと連携したHulkPayで代金の受け取りをすれば、購入者が購入した時点での外貨通貨に対して1.25%分を差し引いた金額を受け取ることになる。具体的に上記の例で計算すると以下のようになる

100円×100ドル×(1-0.0125)=9,875円

受け取れる金額の差分は707円となる。

このHulkPayは月額課金によって動いており、月額課金を増やせば、代金の受け取りだけでなく、業者間の支払いにも対応することで低料率を実現している。

PayPalを使用した購入者が支払った金額と、販売者が受け取る金額の差分は
10,816円-9,168円=1,648円となる。

AladdinとHulkPayを使用した購入者が支払った金額と、販売者が受け取る金額の差分は
10,125円-9,875円=250円となる。

このことからも分かるように、為替による両者の損を出来る限り少なくするのがM-DAQのプロダクトの核である。

※参照元
https://www.businesstimes.com.sg/brunch/gamechangers-in-fintech

競合・サービス拡大

競合について

M-DAQの競合はFintechの中でも仮想通貨決済事業を推し進めている企業である。その中でも一番の競合となりえたのがTenXだった。資金は約88億円をICOで調達していた。現在は決済インフラの根幹である、カード発行会社が資格はく奪により、発行と決済を行うことができていない。

M-DAQが扱うのは、あくまで法定通貨であり、現状ではいつでもどこでも使えるものを取り扱っている。仮想通貨の決済システムが完璧に整う前に多くのプラットフォームにプロダクトを組み込むことで、M-DAQの基盤はより盤石なものとなるだろう。

具体的には2020年に予定しているIPOで資金調達をして、全世界に向けたプロダクトの提供である。現在はアジアを中心としているため、影響力も限定的だがより多くのプラットフォームに根付くことで、スケールメリットを享受し仮想通貨よりも低い手数料で決済を行うことが一番の布石となるだろう。

しかし、TenXに限らず、ほとんど全ての仮想通貨決済事業のスタートアップがM-DAQの競合となる。なぜなら、仮想通貨自体が決済手数料を驚くほど安くするプロダクトだからだ。国内の業者の送金手数料の最安値は無料となっている。

ただし、どの仮想通貨決済業者でもM-DAQのように多くの現地通貨から支払をおこなうまでの大規模なプロダクトには手を付けられいない。仮想通貨では取引所、ウォレット、決済などが分けて行われている。

また、eコマースプラットフォームにプロダクトを組み込むことができていない。現状の仮想通貨決済業者は現地通貨から一度仮想通貨を購入しなければ決済することができない。

決済に対応している仮想通貨は非常に値動きが激しくコンビニ決済などでは対応できないプロダクトである。仮想通貨決済は非常に限定的なソリューションに留まっているのが現状である。

一方、M-DAQはAladdinで外貨の同時追跡と発注を行うこと、そしてHulkpayで決済代行を行うシステムを既に多くのプラットフォームで導入している。

まず、Aladdinによって製品の売値と買値を確定し、外貨を発注する。そして次に、買い手側の支払情報を自社のネットワークを用いて大量に素早く集計し、Hulkpayによって決済を代行し、売り手側に現地通貨として払い込みを行うという流れを確立している。

M-DAQのプロダクトはどこにでも応用可能

M-DAQの優位性は、その実現可能性の高さである。取り扱うプロダクトは既に導入済みのものであり、そのプロダクトをどうやってeコマースプラットフォームや金融プラットフォームに組み入れていくかが、具体的なソリューションとなる。

プロダクトを作るだけでなく、実際の運用までをコンサルティングすることで更に付加価値が生まれているのである。プロダクトありきではなく、自社に蓄積された経験値で問題となっている課題を解決することで確実な地位を得ていっているのである。

※参照元
https://cointyo.jp/article/10005934
https://kasobu.com/cryptocurrency-howto-transfer/
http://tfageeks.com/2017/08/29/chat-with-fintechs-thomas-kang-m-daq-a-world-without-currency-borders/

今後の展開

M-DAQが目指すヴィジョンは通貨の国境なき世界である。具体的な実績としてタオバオやAliexpressといった巨大なeコマース市場に参入し、eコマースプラットフォームには売買機会の創出、M-DAQ側には通貨スプレッドによる利益といったwin-winの関係性を保っている。

また、得意とする通貨の追跡と発注のアルゴリズムによって金融機関との連携も今後深まっていくだろう。これは、外国為替レート変化による取引量の変化を機関投資家、個人投資家が嫌うことが理由だ。リアルタイムに指値取引ができるといったプロダクトはどの金融市場からも望まれるものである。

実際の実績をもとに、既存のプラットフォームの根幹をなす機関システムとなることが、先行者利益を得る上で重要である。競合となりえる仮想通貨決済事業者との差はどれだけ早く市場シェアを開拓できるかにかかってくるもの考えられる。

そのためにも、2020年に予定されているIPOによって資金をより調達し、東南アジアを中心にしたプロダクトではなく全世界に向けた前進を行っていくものと考えられる。

※参照元
https://www.m-daq.com/

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